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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)1807号 判決 1974年4月26日

原告 破産者淀建設興業株式会社破産管財人 木村保男

被告 安家茂美

<ほか二名>

右被告三名訴訟代理人弁護士 藤田一良

被告 池島孝

被告 株式会社木戸組

右代表者代表取締役 池島孝

右被告両名訴訟代理人弁護士 山口幾次郎

主文

被告安家茂美、被告安家、被告菅昭、被告池島孝は、原告に対し各自金三、二〇三、九一九円およびこれに対する昭和四五年四月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告株式会社木戸組に対する請求を棄却する。

訴訟費用のうち、原告と被告安家茂美、被告安家収、被告菅昭、被告池島孝の間で生じた分は右被告ら四名の、原告と被告株式会社木戸組の間で生じた分は原告の各負担とする。

この判決は、原告の方で金三〇〇、〇〇〇円の供託をしたときは、第一項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

(一)、原告

主文第一項と同趣旨および「被告株式会社木戸組は、原告に対し別紙物件一覧表記載の物件を引渡せ、右物件を引渡すことができないときは原告に対し金三一一、六六六円を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」

との判決。

二、請求の原因

(一)  当事者

1、訴外淀建設興業株式会社(以下「破産会社」という。)は昭和四二年四月一四日大阪地方裁判所より破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

2、被告安家茂美(以下「被告茂美」という。)は、昭和四〇年二月四日から昭和四一年一二月四日まで破産会社の取締役、同月五日から右破産宣告の日までは破産会社の監査役の地位にあったもので、その間破産会社の事実上の代表者として経理、営業の一切を取り仕切っていたものである。

3、被告安家収(以下「被告収」という。)および被告菅昭(以下「被告昭」という。)は、いずれも昭和四〇年二月四日から右破産宣告の日まで破産会社の取締役の地位にあったものであり、かつ被告収は同年二月四日から昭和四一年一二月五日まで、被告昭は昭和四〇年一〇月四日から右破産宣告の日までいずれもその代表取締役の地位にあったものである。

4、被告池島孝(以下「被告孝」という。)は、昭和四〇年二月四日から昭和四一年一二月五日まで破産会社の監査役の地位にあったものである。

(二)  損害賠償請求

1、被告茂美は、破産会社に対し次のとおり不法行為による損害を与えた。

(1)、被告茂美は、(イ)、和田宅蔵という架空名義ないしは第三者名義を用いて別紙支払利息一覧表(一)記載のとおり昭和四〇年五月一一日から昭和四一年九月二三日までの間前後三二回にわたり金利あるいは手形割引料の支払名下に合計金一、一五一、五〇〇円を、また谷健介という架空名義ないし第三者名義で同一覧表(二)記載のとおり昭和四一年八月一一日から同年一〇月二四日までの間前後八回にわたり金利あるいは手形割引料の支払名下に合計金五八〇、〇〇〇円を、いずれも破産会社に実質債務がないのにこれあるように装って破産会社から支出して破産会社に対して同額の損害を与えた。

(2)、被告茂美は、昭和四〇年一二月三一日妻の訴外周子に対し破産会社所有の自動車一台(トヨペットクラウン、当時の帳簿価格は金七一七、二一〇円)を代金四〇〇、〇〇〇円で売却し、右周子は昭和四一年二月二四日訴外トヨタ自動車販売株式会社から右自動車を金五五〇、〇〇〇円で下取することを条件に昭和四一年型トヨペットクラウン自動車一台を代金一、三五六、〇一九円(ただし、利息を含んだ金額であり、その支払方法は月賦払である。)で買受けたが、右代金のうち同年三月二四日支払うべき金四〇、三一九円、同年四月二四日から同年一〇月二四日まで毎月二四日に支払うべき各金四〇、三〇〇円、以上合計金三二二、四一九円は破産会社が右自動車を賃借したとしてその自動車賃借料名下に破産会社から右訴外会社に支払わせたが、破産会社は右自動車を賃借したこともなく、右割賦金は破産会社が支払うべき必要の全くないものであった。したがって、被告茂美は破産会社所有の自動車を不当に廉売したことにより少なくも金一五〇、〇〇〇円の、右賃借料名下の不法な非債弁済により金三二二、四一九円(以上合計金四七二、四一九円)の損害を与えた。

(3)、右周子は、訴外学校法人若竹学園の理事長であり、かつ、訴外あけぼの幼稚園を経営するものであるが、被告茂美は、破産会社を代理して、(イ)昭和四〇年三月頃右若竹学園と、その経営する千里幼稚園の園舎を代金一七、二〇〇、〇〇〇円で、(ロ)、昭和四一年六月頃右あけぼの幼稚園の経営者である右周子と同幼稚園園舎を代金四、〇二四、七六九円でそれぞれ建築する旨の請負工事契約を締結し、その頃これらを完成引渡した。右代金は、いずれも右請負工事契約の工事内容からみて不当に低廉であって、いずれも各請負工事原価とほぼ同額の価格であったが、一般通常の場合、請負工事契約においては、請負工事原価に、その一〇パーセントないし一五パーセントの荒利益を加えたものをもって請負工事代金と定めるべきであり、右代金がこれを下廻るときは請負人はその工事の施行によって赤字欠損を生ずるものというべきであるから、被告茂美は、不法にも右二つの請負工事契約の締結および施行によって、破産会社に対し少くとも金一、〇〇〇、〇〇〇円以上の損害を与えた。

2、ところで、取締役(代表取締役)は、会社に対して善管注意義務ないし忠実義務を負担し、他の取締役その他の従業員の職務行為に対し監視義務を負っている。また、監査役は、会社に対して会計監査義務を負担し、取締役が株主総会に提出せんとする会計に関する書類を調査し、株主総会に対しこれを報告する義務を負い、その調査の結果取締役に不正行為が存することを発見したときは、これを是正し、あるいはその事実を報告しなければならない。ところで、破産会社の取締役(代表取締役)であった被告収、同昭および同監査役の被告孝は、前記のとおり被告茂美が破産会社に対して損害を与えていたことを職務上知りうべきであり、かつ、これを制止是正させ、あるいはその損害の補填を求むべき職務上の義務があるのに、これを知りながら放置し、調査もなさずに看過したものであるから、右被告ら三名は被告茂美とともに破産会社に対し共同して右不法行為による損害賠償をなすべき義務がある。

3、よって、右被告ら四名は原告に対して各自金三、二〇三、九一九円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(三)  物件返還請求

被告株式会社木戸組(以下「被告会社」という。)は昭和四一年一一月二〇日頃破産会社からなんら正当な理由がないのにその所有にかかる別紙物件一覧表記載の動産を持帰ったが、右物件の当時の価格は同表の時価欄記載のとおりである。よって、被告会社は、原告に対し、右動産の引渡、もしこれが不可能のときはこれにかえて右物件の時価金三一一、六六六円の損害を賠償する義務がある。

三、被告茂美、同収、同昭の答弁

(一)  請求原因に対する答弁

1、請求原因第一項(当事者)は、「被告茂美が事実上の代表者であり、破産会社の一切を取り仕切っていた。」との点を争い、その余は全部認める。

2、請求原因第二項(損害賠償請求)のうち、1、(1)は全部否認する。同1、(2)は訴外安家周子が破産会社所有の自動車を原告主張の金額で買受けたことは認めるが、その余は否認する。同1、(3)は損害を与えた点を否認する。同2は全部争う。

(二)  被告らの主張

1、訴外和田宅蔵は、豊中市岡町二三番地に居住して質屋を経営していたものであり(昭和四二年頃死亡)、被告茂美は破産会社の営業資金を得る目的のもとに破産会社振出の手形を被告が保証裏書したうえ、右訴外人に手形割引してもらっていたものであり、原告主張の金員はすべて右の金利ないしは手形割引料として右訴外人に支払ったものである。なお、「谷健介」という名称は右訴外人の使用した架空の名義であって、この「谷健介」名義で右訴外人と取引した分についても右と同様の趣旨で原告主張の金員を右訴外人に支払ったのであって、いずれにしても、破産会社がうけた金融に対し、その金利ないしは割引料として右の金員を右訴外人に支払ったものであって、被告茂美になんら違法不当な行為は存しない。

2、自動車に関する会計帳簿上の価格と現実の中古車の売価との間に差異の存することは取引界の常識であり、前記安家周子が破産会社から右自動車を買受けるに際しては破産会社関係者の同意および出入業者の意見を徴してその売価を決めたもので、右周子が買収した価格が著しく低いものではなかった。また、右周子が新車を購入する際、販売会社では前記自動車の下取価格は金三七〇、〇〇〇円という査定がなされたのであるが、これに新車に対する事実上の値引分を加え、会計処理上これら全部を下取価格となし、同価格を金五五〇、〇〇〇円と定められたのであって、右下取価格が名目上右周子の買収価格金四〇〇、〇〇〇円を超過しているからといって、右下取価格決定の趣旨が右のとおりである以上、破産会社に対し不法に損害を生ぜしめたものとはいえないのである。また、右周子購入の前記新品自動車一台を一か月賃借した場合の使用料は当時金四〇、〇〇〇円ないし金五〇、〇〇〇円であったから、破産会社が右自動車を現実に使用した期間中原告主張の月賦金を支払ったとしてもそれは破産会社が右自動車を賃借使用したことにより当然支払うべき使用料にかえてこれと同額の金員を月賦金名下に支払っているものにすぎず、これによって破産会社は実質上何らの損害を被むるものではないのである。

3、また、破産会社は、当時自己資産、資金欠乏し、人的スタッフをも著しく欠損し、締約した請負工事はすべて丸投げ、すなわち工事の大部分を下請業者に任せてその工事を施行するのほかなかったが、被告茂美は、その頃建設業界一般に強い不況の嵐が吹き荒れ倒産相つぐなかで少しでも利益を挙げて破産会社関係者の生活の維持安定をはかるため敢えてリスクを覚悟のうえ本件幼稚園園舎の工事を請負ったものである。しかも、あけぼの幼稚園については、同幼稚園は工事用の鉄骨材料を現物給付し、かつその組立関係費用を自ら別途支払っているから右工事について不当に安価な請負契約をなしたという原告の主張は当らないところであり、また、千里幼稚園の工事についてもなんら特別に安価な請負ではなく、かつ被告茂美は下請業者に対し破産会社の破産により支払できなかった分につき自ら支払決済しているものである。

四、被告孝の答弁

(一)、請求原因に対する答弁

1、請求原因第一項(当事者)のうち、1は認め、その余は否認する。

2、請求原因第二項(損害賠償請求)のうち、1はすべて不知、2はすべて争う。

(二)、被告の主張

1、被告孝は、被告茂美から名前だけでよいから破産会社の監査役になってほしい旨頼まれ、破産会社の仕事を右茂美から受けていた関係で断れず、これを承知したものであり、登記簿上の名義のみの監査役にすぎず真実の監査役に就任したものではない。したがって、破産会社は被告孝に株主総会の開催通知を一回も行ったことはなく、被告孝は、株主総会に提出する会計帳簿類を調査し意見を報告する機会は全くなかった。

また、かりに被告孝が現実に会計帳簿類を調査でき、かつ現に破産会社の取締役に不正不当の行為があったとしても、被告孝には右不正行為等を発見するだけの会計経理能力はなかったから、右取締役等の不正行為等を知らなかったとしても、それは不可抗力というのほかはない。勿論、被告孝が右不正行為等を知っていたということは全くないものである。

2、以上の次第であるから、被告孝には破産会社の監査役としての責任は存しないものである。

五、被告会社の答弁

(一)、請求原因に対する答弁

1、請求原因第一項(当事者)の1は認める。

2、請求原因第三項(物件返還請求)はすべて否認する。

(二)、被告会社の主張

1、別紙物件一覧表記載の各物件は、破産会社が被告会社方に一方的に放置していたもので、被告会社がその保管を受任したものではない。

2、かりにそうでないとしても、被告会社は昭和四一年一二月一〇日破産会社より右物件一覧表の1ないし7記載の各物件を代金一一九、八三三円で買取ったから、右各件については、その返還義務はない。

六、証拠≪省略≫

理由

一、破産会社が昭和四二年四月一四日大阪地方裁判所より破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがなく、被告茂美が昭和四〇年二月四日から昭和四一年一二月四日までは破産会社の取締役、同月五日から右破産宣告の日までは破産会社の監査役の地位にあったこと、被告収および同昭が昭和四〇年二月四日から右破産宣告の日まで破産会社の取締役の地位にあり、かつ被告収は同年二月四日から昭和四一年一二月五日まで、被告昭は昭和四〇年一〇月四日から右破産宣告の日までいずれもその代表取締役の地位にあったことは、被告茂美、同収、同昭の関係では当事者間に争いがなく、また、被告孝の関係では≪証拠省略≫によってこれを認めることができる(これに反する証拠はない)。

また、≪証拠省略≫を総合すると、被告茂美は、前記破産会社の取締役に就任期間中、破産会社の営業経理関係を一切委任され、これが業務に従事していたことが認められ、これに反する証拠はない。なおまた≪証拠省略≫によれば、被告孝は被告昭から破産会社の設立に際し、その監査役に就任してほしい旨頼まれ、これまでの被告昭らとの取引関係からこれを拒絶することができず、やむなくこれを承諾し、昭和四〇年二月四日から昭和四一年一二月五日まで破産会社の監査役の地位にあったことが認められ、これに反する証拠はない。

二、そこで、まず、原告の損害賠償請求の当否につき判断する。

(一)、≪証拠省略≫によれば、被告茂美は、かねて金融をうけていたことのある訴外和田宅蔵より破産会社振出、同被告裏書の手形を差入れて手形貸付をうけ、あるいは手形の割引をしてもらっていたが、その金利あるいは手形割引料として破産会社の資金から別紙支払利息一覧表(一)、(二)記載のとおり昭和四〇年五月一一日から同年一〇月二四日までの間前後四〇回にわたり合計金一、七三一、五〇〇円を引出して右訴外人に支払ったことが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、原告は、右の手形貸付等については被告茂美が真実の借主等となっているものであり、破産会社は金融等を受けたものではなく、唯金利等を自己資金から支払っているにすぎず、右訴外人に対し実質的な債務はなかったと主張し、これに対して、被告茂美ら四名は、右の手形貸付等はすべて破産会社の営業資金に充てるため被告茂美の信用を利用して右訴外人より金融を得たものである、と抗争するが、右金融等の当時破産会社が右金融等を必要とした事情および右融資金が破産会社の会計に組入れられたことについては少しも立証がなく、また、前記各一覧表により明らかなとおり右訴外人との間で取決められた金利等の利率はそれぞれの融資等に際して個別的に決められていて相互に統一を欠き、また右融資の期間は比較的短期間であるのに全体を通覧するに利率において相当の浮動高低がみられ、通常の会社を対象とする継続的な金融取引としては些か異常な現象とも受けとれるのみならず、弁論の全趣旨によると、破産会社は被告茂美の一人会社的性格が強いものというべく、同被告は、破産会社の取締役等の地位にありながら、後記のとおり破産会社の損失において同被告の同族(妻)の利益をはかるという利益相反行為を敢えて行っていたものであり、これら諸般の事情からみれば、被告茂美個人が自らのため右訴外人から前記の金融等を受けていたものであり、破産会社は右訴外人に対して実質的にはなんらの債務を負っていないのに、同被告の背信行為により不法にも名義上債務者とされ、右訴外人に対して右金利等の支払をしていたものであることを容易に推認することができる。

したがって、被告茂美は自己の背信行為により、破産会社に対し金一、七三一、五〇〇円の損害を与えたものというべきである。

(二)、次に、自動車売買関係について考えるに、≪証拠省略≫によれば、被告茂美は破産会社の代理人として昭和四〇年一二月三一日同被告の妻訴外安家周子に対し当時の帳簿価格が金七一七、二一〇円の破産会社所有自動車一台を代金四〇〇、〇〇〇円で売却したが、右自動車は右訴外周子が昭和四一年二月二四日後記の新品自動車を購入するに際し、代金五五〇、〇〇〇円で販売会社に下取されたこと、および右訴外周子は同日販売会社より昭和四一年型トヨタクラウン自動車一台を購入したが、同年三月二四日から同年一〇月二四日まで毎月二四日かぎり支払うべき月賦金各金四〇、三〇〇円ずつ(初回は金四〇、三一九円)合計金三二二、四一九円は破産会社より支払われたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定事実によれば、破産会社所有車を右周子が買受けた当時の帳簿価格が金七一七、二一〇円であり、また右購入後二か月経過後販売会社の下取価格が金五五〇、〇〇〇円であったというのであるから、右自動車の右売買当時(昭和四〇年一二月三一日当時)の価格は金五五〇、〇〇〇円以上とみるのが相当であり(≪証拠判断省略≫)、かつ、また、破産会社が金融に迫られていたなど特段の事情がないのに妻周子に対しこれを僅か代金四〇〇、〇〇〇円で販売するが如き行為は破産会社の任務に背いた廉売行為であり、被告茂美は不法にも右背信行為により右代金と実質価値との差額金一五〇、〇〇〇円の損害を与えたものというべきである。

また、右周子の購入した前記自動車の代金を保証人その他特別の地位にない(あるという証拠がない。)破産会社が支払をなすことは通常非済弁済に該当するものであり、これを知ってその支払をなした被告茂美は、不法行為によって破産会社に対して同額の損害を与えたものというべきところ、右被告ら四名は、右周子の購入した自動車は破産会社が使用しているものであり、破産会社はその賃借料の替りに右月賦代金を支払っているものである、と主張しているが、これにそう≪証拠省略≫はあいまいであり、にわかに措信することができず、他に右主張にそう証拠はないから、右主張事実は認めることができない。

そうすると、被告茂美は破産会社に対して右自動車の不法廉売により金一五〇、〇〇〇円、右月賦代金の不法な支払により金三二二、四一九円(以上合計金四七二、四一九円)の損害を与えたものというべきである。

(三)、さらに、請負工事関係について考えるに、≪証拠省略≫によれば、被告茂美は破産会社を代理して、昭和四〇年三月頃、学校法人若竹学園(理事長、安家周子)と千里幼稚園の園舎建設の、昭和四一年六月頃あけぼの幼稚園の経営者訴外安家周子と同幼稚園の園舎建設の各請負工事契約を締結したが、その頃破産会社は右工事を完成して引渡し、前者につき金一七、二〇〇、〇〇〇円、後者については金四、〇二四、七六九円をそれぞれ受取ったが、これらの金高はいずれも右建築工事上の実費にすぎず、工事による報酬ないしは利益を全く含んでいないものであり、なお、右の報酬ないし利益の額は通常建築工事に要した実費の金額の七パーセントをもって相当とすることが認められ(る。)。≪証拠判断省略≫

ところで、被告茂美が、なんら他に特別の事情の認められない本件において、いわゆる実費で右各幼稚園園舎の建築工事を行なうが如きことは、それ自体破産会社に対し損失を与える不法行為(背信行為)というべきであり、被告茂美は右建築工事の締約および施行により破産会社に対して前記認定のとおり右実費の七パーセントにあたる金額、すなわち金一、〇〇〇、〇〇〇円以上の損害を与えたものというべきである。

(四)、以上のとおりであって、被告茂美は右不法行為により破産会社に対して右(一)ないし(三)記載の損害の合計金三、二〇三、九一九円を賠償すべき義務があるものというべきところ、被告収、同昭は右不法行為当時いずれも破産会社の取締役の地位に、被告孝は当時破産会社の監査役の地位にありながら、その任務懈怠により破産会社に対して前記損害を被らせたものというべきであるから、右被告ら三名は被告茂美と共同して破産会社に対して同額の損害を賠償する義務があるものというべきである(なお、被告孝主張の事由は、いずれも監査役としての責任を免がれうるものとはなしがたい)。

三、次に、原告の物件返還請求の当否について判断する。

(一)、≪証拠省略≫によれば、破産会社は昭和四一年一二月二〇日頃、その所有にかかる別紙物件一覧表1ないし7記載の物件を被告会社に対し代金一一九、八三三円(個個の物件の価格は同表の認定価格欄記載のとおりである)で売渡したことが認められ、これに反する証拠はない。すると、右の各物件は右売買により被告会社の所有に帰したものというべきであるから、右物件が破産会社の所有であるとしてその引渡を求める原告の右物件引渡請求はその前提を欠き失当であるというべきである。

(二)、次に、原告は、右一覧表8記載の物件を被告会社が破産会社から持帰った旨主張しているが、全立証によるも右事実を認めることはできない。

(三)、以上の次第であるから、原告の被告会社に対する請求はすべて認められない。

四、そうすると、原告の本訴請求は、被告茂美、同収、同昭、同孝の四名に対し各自損害賠償金三、二〇三、九一九円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四五年四月二三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるからこれを認容し、また被告会社に対する物件引渡請求はすべて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 砂山一郎)

<以下省略>

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